第8回講演会・懇親会―平成14年3月11日(月)―
今月は、久々に大阪産業創造館に会場を移し、バイオをテーマに高橋民雄氏に講演をしていただきました。
某大手化学会社に勤務されているご経験から、いろいろとおもしろい話を聞かせていただくことができました。
バイオという、非常に漠然としたテーマだったのですが、学術的な話から、ビジネスの話まで、広範囲にわたってのトピックを網羅していただけました。

講演の前半部分は、どちらかというと高校時代の生物の授業を彷彿とさせるものでした。
一部の方々を除き、かなり理解が困難な話が多く、私及び、私の同級生達は、自分たちの不勉強を棚に上げて、高校時代の生物担当の教師を恨んでみたりしました。
でもその中でも、いくつかのわかりやすい話があって、例えば人間の頭のてっぺんがちょっとやわらかくなっているのは、もともと人間の体はすべて肋骨のように環状に出来ているからだとかいう話は、かなり印象に残ったことだと思います。

また、植物の葉に、ほたるの遺伝子を組みこんだ、光る葉や、それを御堂筋に植樹したときの想定写真である「光る樹」の映像を見せていただき、もし実現すれば電気代がかなり節約できるなどという話も確かにバイオの世界の一部分であることを漠然と理解できました。

今でこそ遺伝子に関する研究や、ヒトDNAの塩基配列の解明について、話題になることが多いものの、実際にバイオテクノロジーという分野が本格的に研究されはじめたのは、たかだか50年前からだそうです。
物理や化学に比べて、研究が遅れた理由は、「難しいから」ということですが、最近はコンピューター技術と組み合わされて、研究がかなり進んできているようです。

講演の後半部分は、バイオの分野が今、どのような場面で活用されているかという、具体的なお話をしていただきました。
すべて解明できたとされるヒトのDNA塩基サイズが30億個であるのに対し、小麦のDNAは160億個であるというのも驚きでした。別にヒトの方が小麦よりも作りが単純であるというわけではなく、小麦は「動けない」ため、いろんな場面を想定して、「無駄な(将来必要となるかもしれない)」DNAをたくさん保有しているとのことでした。

このようなバイオテクノロジーは、医療・医薬・環境・食品・農業などを横断的にまたがる技術であるため、これからは、いままでとまったく異なるアプローチによる産業の発展が予想されるようです。
例えば、医療の世界にこのDNA研究が与える影響として、個人の遺伝子情報に応じたテーラーメードの医療・医薬投入が可能になることが上げられます。また、個人の遺伝子情報を読み取ることによって、将来の病気発生の可能性や、遺伝病の状況もわかるため、「あなたは病気だけれど私は元気です」という状態から、「みんな病気である」という状態があたりまえになるという、考え方・生き方にも影響を与えるようなことになりそうです。

また、遺伝子研究の現場でのお話もしていただきましたが、医薬品メーカーのロシュが、遺伝子的に非常にクローズな場所である、アイスランドと国ごと契約をして、遺伝子を採集するかわりに、ロシュで開発した医薬品をすべて無料で提供しているという話は、この遺伝子産業をとりまく世界の、スケールの大きさを見せつけられた気がしました。

結局、バイオの現場を一言で表現すると「DNAを解釈し、その特徴を把握し、それをどの用途にどう生かしていくかというDNA利用産業である」ということでした。

講演の最後の部分では、人間の能力ということにも話が広がり、人生観などの「観」の概念まで言及されました。
そして最後には、人間の能力はある年令から衰えるものではなく、死ぬ直前まで伸び続けるというお話で締めくくられました。
死ぬ間際の3週間だけは急下降するそうですが、でもたったの3週間だけだそうです。

私達も日々のめまぐるしく変わる情報の流れに身を置いて、ファースト・ヒストリーに翻弄され続ける毎日ですが、本日のお話のように、単細胞から多細胞に分裂し・・というスロー・ヒストリーの話を聞かせていただけて、とても有意義な時間を過ごさせていただくことができました。